2021年6月に発表されたSDGs世界の国別達成度ランキングは、1位フィンランド、2位スウェーデン、3位デンマーク、4位ドイツ、5位ベルギー、日本は195カ国中18位という結果となり主要国を大きく下回りました。SDGs(Sustainable Development Goals:サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ)とは2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のためのアジェンダ」に記載された2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための課題へのゴールのことです。
このような背景の中、企業にはSDGsの視点から考案した新商品開発やサービス展開、新規事業の開拓といったビジネス活動の一環として行う投資、イノベーションを通した課題解決が期待されています。食品産業に携わる企業のSDGsの取組みをご紹介します。
アサヒユウアス
豊かな自然を後世へ繋ぐことを目的に、アサヒグループがサステナビリティを経営の根幹におく事業が2022年1月からECサイトで開設されました。「使い捨て」という消費者行動そのものの変革を目標とし「捨てない飲料容器」の開発に取り組みました。
商品の1つであるエコカップ「森のタンブラー」は原料の55%以上を高濃度セルロースファイバーや地域の間伐材、ビールなどに使用する麦芽の製造工程で発生するロス原料焙煎麦芽粉砕物など植物繊維を活用し製造されています。パナソニックとの共創のこの製品は、植物性の繊維質であればどんなものでも原料にできます。
下図のTalkwalkerのテーマクラウド(トピックに基づいて記事/投稿によく見られる単語、絵文字等を視覚化)から、「捨てない飲料容器」が消費者から好意的に受け止められていることがわかります。
「捨てない飲料容器」は消費者に好意的に受け止められている
また、同社がファッションブランドとコラボレーションし製造した「蔵前BLACK」および「蔵前WHITE」は、それぞれ製造過程で排出される廃棄物を原料にしたクラフトビールです。それぞれ「蔵前BLACK」はコーヒーの廃棄豆、「蔵前WHITE」は、サンドイッチの製造工程で排出されるパンの耳と小麦を原料としたヴァイツェンタイプのクラフトビールで、アルコール度数も5%という飲み心地を提供しています。
さらにフードロス、SDGsという大きな文字からも、この商品への消費者の理解があることが伺え、企業側のプロモーションが確実に消費者の心を捉えていることがわかります。こちらも、Talkwalkerのテーマクラウドからどのようなハッシュタグが多く投稿されているかを見てみると「サステナブルビール」が中央で大きな文字であることから、商品のコンセプトが消費者にきちんと届いていることがわかります。(文字の大きさは投稿数の量と比例します)
「蔵前BLACK」および「蔵前WHITE」はサステナブルビールとして消費者に受け止められている
ニチレイ
デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は食の領域にも押し寄せ、食とITとの融合による「フードテック」は世界で2014年ごろから投資が急増し、2018年には2兆円規模、2025年までに700兆円規模の市場が期待されています。ここでは、食品業界がフードテックを活用したSDGsへの企業の取り組みをご紹介します。
ニチレイが提供する献立自動生成アプリ「me:new(ミーニュー)」はAIによりユーザーの食好み、気分や環境などに応じて、パーソナライズされた献立を提供しています。
献立は作り置きに特化した自家製ミールキット(ミールキットとは料理に必要な食材とレシピがまとめて用意された一式のこと)を使用したもので、調理工程も提供されます。この調理工程は、同じ食材を使うのであればまとめて処理ができるように工夫されており、野菜を切ってから肉の味付けをしたりといったように、まな板や包丁などの調理器具をいちいち洗う手間が少なくなるように作られています。
さらに、このアプリは1週間分の作り置きに必要な分だけの食材を提示するため、ユーザーは無駄な食材の購入をすることなく、1週間で食材を使い切ることが可能になります。これは食品ロスの削減へと貢献します。
Talkwalkerの分析をみると「献立アプリ」「おうちごはん」が目立ちます。新型コロナウイルスの影響から巣篭もり、そして家での食事に消費者の心が動いていることが分かります。また、「料理男子」というキーワードも気になります。
me:new(ミーニュー)と多く使用されるハッシュタグ
性別を見てみると、女性に対し男性の投稿が多いことがわかります。また、年齢層では35歳〜44歳が全体の60%を占め、圧倒的に多く、全体的にも投稿は全て18歳〜44歳までが占めており、若者の関心が高いことがうかがえます。
性別、年齢別の投稿数
また、このアプリは食品メーカーのマーケティングを大きく変える可能性を秘めています。同社は製造された食品を卸を経由して小売業が販売するという商習慣を取っていたため消費者との接点がなく「消費者の声」を聞き、それらを商品やサービスの改善へと繋げることが困難でした。このアプリが消費者との新たな接点となり、彼らのさまざまな声をデータとして収集しサービスの向上や商品開発に結びつけていくことが可能になります。
SDGsの取組み企業への評価
このように直接的にビジネス利益に直結することがなくても、環境や社会に関する問題に対し企業が社会的責任を推進することで企業のイメージアップだけでなく、ブランドの価値の向上にも繋がり、単純な利益追求では獲得できない成長が可能になります。2021年4月に電通が実施したSDGsに関する生活者調査によると「積極的にSDGsに取り組む企業」の今後のイメージを聞くと、「社会からの信頼」が68%にのぼっています。